1980年代に現れた日本独自のストリートファッションであるロリータ服が中国で大流行しています。日本ブランドが進出するだけでなく、逆輸入の形で日本に中国ロリータのセレクトショップが増えつつある現状。中国ロリータの魅力を、2020年の新型コロナウイルス感染症の影響も踏まえて、業界トップカメラマンの睿瑶爸爸(パパ)さんに訊きました。
日本アニメに影響されてロリータが流行った中国
中国で流行した背景には、『カードキャプターさくら』や『ローゼンメイデン』など、ロリータ服のようなファッションが登場する日本アニメの影響があると言われています。
実際、中国ロリータブランドにとって最大の見本市場は“中国版コミックマーケット ”「上海Comicup」で、会場の3分の1をロリータブランドが占めるほどです。現在活躍するロリータモデルも多くが日本の2次元作品に触れていて、中国のロリータ愛好家にはコスプレや制服、漢服(中国アニメやゲームの影響)も好きな人がいます。
しかし、中国ロリータは2018年〜2019年に大きな発展を遂げ、いわゆるオタク層ばかりではなく、一般層にとっても身近なファッションアイテムとして周知されつつあります。そこには日本以上にデザインの多様化と、インフルエンサーである中国ロリータモデルの活躍がありました。
モデル:_零零零一
中国はブランド数が日本の3倍以上でデザインの競争が激しい
日本のロリータブランド数が約50に対して中国は約150以上もあります。ロリータと言えば、大きなリボンやレースにフリル、ふんわり膨らんだスカートが「お姫様」を連想させますが、中国では独自の発展を遂げてデザインが多様化しました。
ロリータ服は、お姫様のようにキュートな「スウィートロリータ」、落ち着きのあるヨーロピアンな「クラシカルロリータ」、ゴシックの要素を取り込んだ「ゴシックロリータ」、カジュアルテイストな「ソフトロリータ」の4タイプに分類されます。しかし、中国ではブランド数の多さから競争が激しいため、従来の枠に収まらないデザインがバリエーション多く生まれています。
モデル:董洛婉
モデル:全全Piggy
百花繚乱の中国ロリータモデル
中国ではネットショッピングが主流。中国ロリータブランドは当初から、実店舗をほぼ持たず、weiboやQQなどのSNSでインフルエンサーを起用した宣伝手法を取りました。そこで重要になるのがモデルとカメラマンによる拡散力の高い写真です。
日本と中国では求められる宣材写真の方向性が違います。どちらも服にフォーカスするのは共通ですが、日本が基本的に正面の全身写真でスナップ風なのに対し、中国はロリータ服の世界観を連想させるために構図や演出に力を入れた絵画のようです。
モデルとカメラマンに委ねられる裁量が多く、特にモデルはインフルエンサーとしての発信力が期待されますし、女性ファンも必然的に多くなります。収入の面でもトップモデルともなればサラリーマン平均月収の何倍も稼げるため、中国人女性にとって魅力的なロールモデルになりつつあるのです。
中国ロリータ業界トップカメラマンの睿瑶爸爸さん
「Bramble Rose」/モデル:小野汀、全全Piggy
睿瑶爸爸プロフィール
中国で多くのブランドから撮影依頼されるカメラマンのが睿瑶爸爸(パパ)さんです。自然光撮影が得意で、トップモデルの謝安然(シェアンラン)ちゃんや全全Piggyちゃんと組んだ作品の数々はまさに芸術的な美しさです。2019年は約500着、2020年は新型コロナ感染症の影響で減ったがすでに300着以上も撮影しています。
連絡方法:メール→1379930170@qq.com/WeChat→1379930170
2019年は中国ロリータ市場が大きく飛躍!2020年は実店舗をオープンした中国ブランドが増えた
──中国のロリータ市場はどれくらいの規模ですか?
睿瑶爸爸:中国ではロリータはアニメの影響で広がった背景があります。その観点では二次元作品が好きな層が現在のメインターゲットでしょう。中国のあるニュースでは、国内における二次元作品市場規模は3億人を超えたと報道しました。しかしこれは、二次元作品に関するグッズやコスプレ、制服、漢服も含まれた数字です。ロリータ服だけなら、さすがにそこまで数は多くないですね。
──2019年と2020年の中国ロリータ市場を振り返っていかがでした?
睿瑶爸爸:2019年の中国ロリータ市場は、これまでの年と比べても突発的な発展をしました。一つの新作が数千着も売れたブランドがたくさんあり、ロリータはアニメやゲーム好きな層だけでなく、一般層にも知られるファッションアイテムへと変化しました。
2020年は新型コロナウイルス感染症による経済的な落ち込みの影響で、国内では消費を抑える傾向に進んで単価が安い服のニーズが高まり、中国ロリータ市場全体の売り上げが落ちました。
中国のブランドでも、100着以上新作が売れたブランドは10件ほどです。そこはブランドの知名度に関係なく、デザインの見事な新作は好評でした。多くの中国ロリータブランドは未だに苦戦中です。
また、2020年後半の大きな変化としては、それまでオンラインショップ販売が主流だった中国ロリータブランドが、実店舗を設立するようになったことです。狙いとしては、一般層を中心に新たなファンを獲得することで、いくつかの店舗はすでに良い成果を上げています。
「古典玩偶classicalpuppets」/モデル:全全Piggy
──中国では制服、漢服なども競合と言えますが、ロリータ服がここまで流行った魅力は何だと感じていますか?
睿瑶爸爸:デザインの秀逸さと多様性だと思います。漢服と制服はそのルーツと概念上、設計の幅は限られてしまい、大きな変化をデザインすることはできません。しかし、ロリータにはブランドごとにデザインの自由度が非常に高く、独創性のある表現をすることができます。
──カメラマンとしてはどのようなロリータ服が印象に残りますか?
睿瑶爸爸:デザインの独自性、自ブランドのコンセプトの確立、品格を伴ったロリータ服が目に留まりやすいですね。
「ladymiao」/モデル:全全Piggy
──直近の5年で中国ブランドはどのような変化がありますか?カメラマンも撮影方法が変わりましたか?
睿瑶爸爸:3年前までは日本ロリータブランドが中国で一番の人気でした。しかし、今は中国ロリータブランドが日本以上に増えたことで、新しくロリータを着たいと思う人が、日本ブランドをファーストチョイスすることが減っていると感じています。
ロリータカメラマンの撮影スタイルは大きな変化はしていません。ただし、さらに美しい写真を追求する意識はより高まっています。
──最近はロリータモデルの新人は増えていますか?カメラマンとして印象に残るのはどんなモデルですか?
睿瑶爸爸:少しですが増えています。容姿に個性があり、撮影時に表現力の高いモデルさんですね。
「LucyAndLory」/モデル:全全Piggy、罪音子
カメラマンやモデルに委ねられる裁量は年々増えている気がする
──ブランドからの依頼と納品までの流れを教えてください。
睿瑶爸爸:1.カメラマンに依頼があり、ブランドの要望を踏まえてモデルを推薦します。逆に、直接モデルに依頼があり、モデルがカメラマンを推薦する場合もあります。
2.納品日と報酬、経費が確定すると、先に前金が支払われます。次に撮影テーマやコンセプト、ロケーションを打ち合わせし、屋外で撮影する場合は天気の変動も考慮して複数の撮影日程を立てます。
3.撮影が終わると、残りの報酬も支払われます。
4.写真を現像・レタッチして期日までに納品します。
──ブランドが写真で重視することは何ですか?カメラマンやモデルに任せられる裁量はどれくらいですか?
睿瑶爸爸:最も重視しているのはロリータ服の拡散力だと思います。撮影に関してカメラマンやモデルに委ねられる自由度は年々高くなっています。個人的感想ですが制限が多いと、宣材写真としての品質を担保するのが精一杯になりがちで、人の心を打つようなクオリティーの追求が難しくなります。
モデル:董洛婉
──ご自身はどのような撮影手法が好きですか?また、撮影アイディアはどうやって考えていますか?
睿瑶爸爸:私が好きな撮影方式は、全て自分の理想通りにコントロールした撮影です。もちろん、ほとんどのケースで実現は不可能ですが。撮影アイディアでまず考えるのは、そのロリータ服のデザインやコンセプト、ブランドの設計理念を把握した上での、最適な見せ方です。それから季節、ロケーション、天気、費用に合わせて現実で撮影方法を考えます。現実において実現可能であることがとても重要になります。
──「理想通り」とは具体的にどんなことでしょうか?
睿瑶爸爸:大事なのは天気、光、ロケーション、人、小道具など、自分が最も得意かつやりやすい状況下で撮影する事です。その条件が得られればより集中しやすく、良い写真を撮ることができます。また、逆に撮影状況をコントロールできない時は、まず先にこれらの条件をできるだけ満たせるように見直します。そのまま撮影を続けても満足いく写真が撮れる可能性は低く、余計に心身を消耗するからです。
モデル:謝安然
自然光撮影だとロリータ服の色味や質感が伝わりやすい
──ご自身は自然光撮影が主流ですが、その理由は何ですか?また、珍しいロリータの水中撮影も何度か撮られていますよね。
睿瑶爸爸:自然光撮影が多いのは個人的な好みです。ただ、自然光の環境下だとその服本来の色味や質感が出やすいです。もちろん、屋外であってもストロボなどで作った光を利用する場合もあります。
水中撮影はブランド側の提案で、私はどのように実現させるかアイディアを練りました。ただ、基本的には水中撮影を選びません。この手法だとロリータ服を正常な状態で見せるという点では不十分だからです。もし水中撮影を希望された時は、事前にブランド側にメリット・デメリットをしっかり伝えます。
──2020年で最も印象に残る撮影の記憶は?
睿瑶爸爸:大雨の中での屋外撮影です。ブランド側が指定した日時とロケーションで変更ができなかったのもあり、撮影しないわけにはいかなかった日です。天候が撮影した写真に大きな影響を与えると分かっているのに、何もできない無力感がありました。
──2020年に開催された“中国版コミックマーケット ”「上海Comicup26」(2020年7月開催)の状況はどうでしたか?
睿瑶爸爸:新型コロナ感染症の影響が大きく、出店したブランド数は前回の約3分の1でした。入場規制も敷かれたので、来場者数も減りました。2021年1月開催予定の「上海Comicup27」はブランドの事前告知を見る限り、約3分の2にまで出店数は戻りそうです。しかし、実際に開催されるのを見なければ状況は読めないですね。
──最後に、2021年の期待、個人的な目標を教えてください。
睿瑶爸爸:中国ロリータ市場が上向くこと、新型コロナウイルス感染症が収まることを期待しています。インターネットや交通の発展で、地球上の各国の繋がりが身近になっているので、考えるべきは自国だけではありません。中国では新型コロナウイルス感染症がかなり収まっていますが、他国での影響は未だに大きいです。人々の収入が減った状況下では、残念ながらロリータ市場は必ずしも生活に必要とは言えないでしょう。世界中の状況が改善され、人々の生活が落ち着いてこそ、中国ロリータ市場の上向きに繋がると思います。
私個人の目標としては、継続してしっかりと写真を撮ることです(笑)。
撮影:睿瑶爸爸 Weibo