こんにちは、原宿系イラストレーターの江崎びす子たんです。
先日久しぶりに地上波のテレビに出させていただき、また「病みかわいい」を取り上げていただいたのですが
そういえば原宿POPの記事で、まだ「病みかわいい」について深く解説した事が無かったなぁと思ったので
今回は「病みかわいい」について
名付け親のびす子たんが責任を持って
誕生の経緯からその意味、込めた思いについて書かせていただきます。
是非、最後まで読んでもらえると嬉しいです♪
長くなりますので、わかりやすく項目ごとに目次を用意しておきます。
- “病みかわいい”とは?
- “病みかわいい”誕生秘話①ゆめかわブーム編
- “病みかわいい”誕生秘話② TumblrとTwitterから生まれた”ゆめかわいい”+”病み”の融合
- “病みかわいい”誕生秘話③メンヘラチャンと病みかわいいが日本のサブカル界でブームに
- “病みかわいい”誕生秘話④病みかわいいが日本から世界に、アメリカとヨーロッパを中心にネクストブレイク。
- “病みかわいい”のルーツを探る①”かわいい”だけじゃない、「〇〇かわいい」の二面性のギャップと魅力。
- “病みかわいい”のルーツを探る②”病みカワ”誕生のはるか前から”病みカワ”をやってのけていた人たち。
- “病みかわいい”に込めた想い
“病みかわいい”とは?
“病みかわいい”は2013年のゆめかわいいブームに派生する形で私、江崎びす子たんが描くキャラクター『メンヘラチャン』の誕生と共に生まれたサブカルチャー。
病みかわいいは”ゆめかわいい”をベースにそこに精神的な”病み”の要素を加えたジャンルです。
抗うつ剤、首吊りロープ、カッターナイフリストカット、包帯、眼帯、血痕など
バイオレンスでメンヘラチックなモチーフを扱います。
また、「殺」「死」「鬱」といった殺伐とした漢字をプリントした服やアクセサリーが多いのが他のどのジャンルにも被らない点です
“病みかわいい”を好むユーザーが全員メンヘラであるという偏見がありますが
“かわいいのに病んでいる”という二面性のギャップから好む人もいれば
実際に精神的な病を患っており、自分にとって身近で共感しやすいテーマであるから好む人もおり様々です。
“病みカワ”誕生秘話①ゆめかわブーム編
今から9年前の2013年ごろ
Twitterを中心に”いちごみるくが好きなツインテールの女の子” “白いうさぎ” “パステルカラーのセーラー服” “ピンク色の雲の上にポエムを綴った画像”などがサブカル界隈で流行の兆しを見せ始め
Tumblr(タンブラー)やプリ画像byGMOなどの人気画像投稿サイトでも上記のような画像が大量に出回り
SNS内で「いちごみるく団」という同盟まで誕生するなど
こうした世界観全体が「ゆめかわいい」というスラングと共に広まり
新たなカルチャーとしてムーブメントになりはじめていました。
私、江崎びす子たんも、そんな第一次ゆめかわブームの渦中にいた1人として自分のTumblr(タンブラー)を開設。
これが”病みかわいい”誕生のキッカケになりました。
“病みカワ”誕生秘話② TumblrとTwitterから生まれた”ゆめかわいい”+”病み”の融合
Tumblr(タンブラー)という画像共有ブログは様々な人が投稿する画像を”リブログ”という機能で自分のページに再投稿する事で人から人へと拡散されていく、いわば言葉を交わさない画像メインのTwitterという感じのSNSです。
綺麗な気色や、かわいいキャラクターの画像
ファッションスナップ、懐かしい写真、アニメのワンシーンなどを共有するサイトとしては
現在のPinterest(ピンタレスト)と同じようなサイトと言えます。
しかし、2013年当時のTumblrは、今と違って規制が全く無く、探せば何でも出てくる
いわばインターネットの無法地帯でした。
ディープなところまで掘り下げると
ビックリ系のホラー画像や、無修正のショッキングな死体写真、ハードコアなアダルト画像、汚物やグロテスクなものまで
美しくて綺麗な写真、可愛い画像がたくさんある一方で
トラウマになるような恐怖画像まで出てくる
かなりアンダーグラウンドなSNSだったのです。
(2018年以降は規制されています)
そして”ゆめかわいい系”のTumblrでは
・”ウインクキラー”や”ツインテール協会”など、2013〜2014年当時流行していたサブカル女子系のポートレート写真
・パステルカラーのセーラー服や原宿系ファッション、フェアリー系の画像
・マイメロディやサンリオなどのファンシー系画像
・セーラームーンやクリィミーマミなどのセル画アニメのGIF
・90年代〜2000年代のアキバ系美少女フィギュアやギャルゲーなどの画像
などが流行していて、びす子たんのTumblrでも同様の内容をリブログしていたのですが
びす子たんは可愛いものだけでは無く
・ヤンデレ系美少女ゲーム、アニメのショッキングな流血シーンのCG
・リストカットやアザの写真
・血で真っ赤になった便器や洗面台や浴槽の写真
・血の涙を流すマリア像
・床に散らばる大量のピル、精神安定剤の写真
・首吊りロープの写真
など”死”を感じられるショッキングな画像も
わざわざ探し出してリブログしており
私のページは”ピンクでパステルなゆめかわいい世界”と”血と薬のおどろおどろしい死の世界”が共存しているカオス状態でした。
そんな自分のTumblrの世界観から閃いて出た言葉が
ゆめかわいい+病み=”病みかわいい”だったのです。
また、「病み」という言葉自体は
当時、インターネット上で
それまで2ちゃんねる内でのみ使われていたスラングであった「メンヘラ」がTwitterに上陸し、ユーザー内で使われるようになったのをキッカケに
「まぢ病み」「リスカしょ。。。」などのメンヘラ系のコピペも少しずつ流行り始めた事で知られるようになり
“ゆめかわいい”と”病み”はまさにどちらも2013年のトレンドワードで
病みかわいいはそのトレンドワード二つを掛け合わせて生まれた言葉でもありました。
“病みカワ”誕生秘話③メンヘラチャンと病みかわいいが日本のサブカル界でブームに
“病みかわいい”誕生と時期を同じく2013年に
びす子たんはキャラクター「メンヘラチャン」を生み出しメンヘラチャン公式Tumblrも開設。
年が明け2014年1月からpixivでメンヘラチャンの漫画連載をスタート。
LINEスタンプやグッズも制作し
ファンはじわじわと増えていき
2014年6月に原宿で初のデビュー個展「メンヘラチャン展」を開催すると、会場の外まで人が並ぶ大盛況となりグッズも展示物も全て完売
その個展で知り合ったキャラクター版権会社と契約を結び
2015年からは全国のヴィレッジヴァンガードやサンキューマートなどでメンヘラチャングッズが発売され
メンヘラチャンは日本のサブカル界で女子中高生からOL世代を中心にヒットキャラクターとなりました。
また、2016年に制作したiPhoneの自撮りデコアプリ「病みカワカメラ」が幅広い層に認知されたおかげで「病みかわいい」という言葉も
徐々に広まりを見せはじめました。
“病みカワ”誕生秘話④病みかわいいが日本から世界に、アメリカとヨーロッパを中心にネクストブレイク。
2016年ごろからメンヘラチャンは原宿系ファッションブランドと精力的にコラボレーションをするようになり、ファッション業界との相性の良さに気付く事になります。
今までただのインターネットスラングだった
“病みかわいい”がファッションのジャンルに移行した瞬間でした。
そして、LISTEN FLAVOR、galaxxxy、ACDC RAGなどの渋谷・原宿系ブランドとコラボアイテムを発表していくうちに
“病みかわいい”ファッションのインタビューの依頼がアメリカから舞い込みます。
それがミレニアル女性向けのメディア『Refinery29』 のドキュメンタリーでした
▶︎The Dark Side Of Harajuku Style You Haven’t Seen Yet | Style Out There | Refinery29
※年齢制限のあるコンテンツとなります。YouTubeサイトにてご覧ください。
このメディアで「日本で誕生した新たなカワイイジャンル”病みかわいい”」の提唱者としてびす子たんは7日間の密着取材を受けます。
その動画が公開されると、世界で1300万回再生を記録。
これをキッカケにメンヘラチャンのInstagramには海外ユーザーが集まり10万人までフォロワーが増え
2018年にはアメリカのロサンゼルスで開催される北米最大のアニメコンベンション「アニメエキスポ」に公式ゲストとしてびす子たんが参加
サイン会には300人のファンが並び
メンヘラチャンコラボのファッションショーも開催され
LAのリトルトーキョー観光案内のパンフレットの表紙、ラッピングバス、リトルトーキョー内の飲食店のイメージキャラクターをメンヘラチャンが全てジャックし
これにより、”病みかわいい”は日本の新たなカワイイカルチャーとして世界で認知されるようになりました。
そして現在(2022年)は、中国や韓国など
アメリカやヨーロッパでのブームから数年遅れて
アジア県内でのサードブレイクに突入し
とくに中国でのファンが急増しています。
“病みかわいい”のルーツを探る①”かわいい”だけじゃない、「〇〇かわいい」の二面性のギャップと魅力。
日本は2000年代あたりから「エロかわいい」「キモかわいい」といった「〇〇かわいい」という言葉がたびたび生まれて流行語になるほど
“かわいい”とは相反する要素を掛け合わせた
いわゆる”ギャップ萌えカワイイカルチャー”が根強い国です。
びす子たんも幼少期の頃から
かわいい+それと反する要素を掛け合わせたものに強く魅了されていた子供でした。
中でも1番強く影響を受けたのが
海外アニメ「パワーパフガールズ」です。
この作品のキャッチコピーは
「強くてかわいい正義の味方」なのですが
「かわいい」という言葉の中には
“か弱い”や”守られる存在”といった意味が含まれているのに対し
そこに全く正反対の”強い”を足すというのは究極のギャップだと思います。
セーラームーンやプリキュアといったヒット作も
“かわいい”と”強い”を合わせた
言うならば「強(つよ)かわいい」作品と言えますよね
ただ、パワーパフガールズの場合は”強い”以上に
“グロい”要素が多く
(オープニングで敵の顔面をキックして血が舞い散り、歯が抜け落ちる表現があったり…)
(モンスターとの戦闘で敵の目玉がとれたり引きちぎれたり…)
(パワーパフガールズの失敗作が大量生産されて、それがどうみてもクリーチャーで怖すぎたり)
(そもそも冷静に考えたら3人とも目がデカすぎてキャラデザ自体がグロカワ)
作品全体を通してグロテスク+かわいい
「可愛さとグロさは紙一重だよ」というメッセージを表現しているように感じます。
そこが魅力であり、そこに惹きつけられる!
ヒット作の条件にはやはり、かわいいだけじゃない「かわいい+何か」が必ず存在する様な気がします。
そして”病みかわいい”も、まさに”可愛さ”と”病み”のコントラストのギャップが人の心をつかむ魅力になっているのだと思います。
“病みかわいい”のルーツを探る②”病みカワ”誕生のはるか前から”病みカワ”をやってのけていた人たち。
びす子たんがやったのは
あくまで名前が無かったジャンルに「病みかわいい」という名前をつけたこと
そして、そのジャンルを世界に広めた事にすぎません。
「病みかわいい」という言葉を生み出す前から
病みかわいい世界観を表現していた
時代を先取りしたアーティスト達が居ます。
彼女たちの存在無しには日本の病みカワカルチャーは無かったかもしれません
イラストレーター『水野純子』
水野純子先生は日本のイラストレーターで、現在はアメリカを拠点に活動中。
90年代に伝説のサブカル系漫画雑誌『ガロ』で連載していた漫画家さんとしても知られ
代表作「ピュア・トランス」はサブカルを愛するユーザーたちからカルト的人気を博しており
その作風は、当時こそ表現する言葉が無かったかもしれませんが
今となっては「病みかわいい」としか言いようがないほど病みかわいいのです。
(メインキャラクターは皆可愛いナースたち)
(物語が痩せ薬をODするシーンからはじまる)
(腕に注射器が刺さったままの医院長がいたり、チェーンソーで戦うシーンがあったり)
びす子たんは水野先生の存在を知ったのが遅く
メンヘラチャンを描き始めてから
友人に「好きそう」とオススメされて漫画を読んで知ったのですが
「まさかこんなに病みかわいい超大作を90年代に発表している人がいるなんて…!!」と度肝を抜かれました。
今では水野先生の作品は全て買い揃えましたし
「ピュア・トランス」は私のバイブルです。
歌手・ミュージシャン『川瀬智子』
バンド「the brilliant green」のボーカルで知られるTommyこと川瀬智子さん。
こちらも、当時は言われていなかったけど
今となっては「病みかわいい」を誰よりも早く
時代を先取りして表現していた先駆者と言えると思います。
まず、そもそも可愛らしいビジュアルのTommyさんがthe brilliant greenで激鬱な歌詞を書き
暗い歌を歌ってきた時点で「病みかわいい」ですが
後に誕生したソロプロジェクトの
ブライトサイドを表現した「Tommy february6」 と
ダークサイドを表現した「Tommy heavenly6」
これがもう、今となっては「病みかわいい」のベースを作ったと言っても過言ではございません。
ベストアルバムの
「Strawberry Cream Soda Pop “Daydream”」と「Gothic Melting Ice Cream’s Darkness “Nightmare”」のアートワークからも分かる通り
2013年のゆめかわ・病みかわ誕生より4年も前の
2009年にはすでに
パステルピンクの”ゆめかわいい”と
ラベンダーとブラックの”病みかわいい”
を完全に再現してやっているんです。
まだ誰も”ゆめかわ” “病みカワ”に気付いていない時期から流行を先取りしすぎている…!!
びす子たんは、メンヘラチャンや病みかわいい絵を描くとき
必ずTommyの曲を作業用BGMにして描いています…♡
“病みかわいい”に込めた想い
“病みかわいい”というジャンルが確立されてからはや9年。
最初こそメンタルヘルスというデリケートなテーマが含まれてるが故に
たくさんの批判の声がありました。
ですが、その一方で「”病みかわいい”に出会って救われました」という声もたくさん聞いてきました。
心に深い傷や問題抱えている人の中には
ただ純粋に”可愛い”だけのものが
とても眩しすぎて、好きだけど、自分のドロドロした内面とかけ離れすぎて感情移入が出来なかったり
明るすぎる世界観に共感できないという人も多くいます。
“病みかわいい”は、そういった人たちの1番近くで寄り添ってあげる事ができる”かわいい”であってほしいと強く願っています。
病んでいる自分を否定せず、受け入れて
それを自分なりの可愛さに転換させて
プラスな精神で生きていってほしい
それが私が”病みかわいい”に1番込めているメッセージです。
びす子たんが「病みかわいい」と「メンヘラチャン」を発信し始めた時期は
びす子たん自身が人生で1番、自分自身の心の病みと葛藤していた時でした。
当時、18歳だったびす子たんは
実家にも学校にもバイト先にも、どこにも居場所が無く、自分を認めてくれる存在も無く
どこに居ても心無い人たちから傷つけられ続け
1日でも早くこの世を去ろうと思っていました。
でも、その行き場のない
“悲しみ”や”怒り”や”心の病み”を「病みかわいい」と「メンヘラチャン」に込めて、アートやファッションに落とし込み表現する事で
なんとかこの世にとどまる事ができました
そして、それを良いね!と言ってくれて
応援し、支持して下さる原宿のみんなや
ファンの方々のおかげで、今があります。
今こうして「病みかわいい」という言葉が幅広い人たちに認知されて、いろんな分野に広まっていってくれている現状を見ると
どれだけ叩かれ、バッシングに晒されても
自分を曲げずに「病みかわいい」を継続して発信し続けて本当に良かったと思います。
これからもどうか「病みかわいい」が
日本が誇るジャパンKAWAIIカルチャーとして
1人でも多くの人の心の支えになる事を願ってます!
長くなりましたが、読んでいただきありがとうございました♪
江崎びす子